甲虫の沈黙/A道化
もなく音もなく、ただ
八月の日に焦げて焦げて、焦がれれば焦がれるほど黒色の艶を帯び
噛みついて吸って吸って吸い尽くすこと願ううちに、致命的に
沁みついてしまったひと夏ぶんの樹液の香りを、ただ
あなたの名前から連想できるその香りを、ただ
甘く、重く、音も無く
漏らすだけで
ああ
体中から漏れるその香りで泣くように
その香りで打ち明けるように、して
夜はウィスキーよりも甘く、重く
音も無く
あなたが始めたわたしを
あなたが終わらせてくれる。と
ひとしずくも疑わぬすべての夜が、もう、ずっと
静かだ
2009.8.7.
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