甲虫の沈黙/A道化
あなたが始めたわたしを
あなたが終わらせてくれる。と
どこかわかっているわたしの夜は
静かだ
夏よ、あなたが
夜に満ちているよ
夜にこそ誰にも触れられずに
(ひそひそ)
ウィスキーの床で柔かに寝転ぶように
わたしの夜にあなたが満ちているよ
そこらじゅうに満ちるあなたのここ、を
耳から首というようなところ、を
探り当てて甘噛みすれば
ああ、樹液だ
どくどく、動脈をゆく樹液だ
その脈拍に合わせてわたしは
どくどく、どく
沈黙、して
ねえ、何度夏の朝が来ても
もう、なんの朝が来なくても
もとより鳴くことを知らぬわたしの体には言葉もな
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