身体の海【1/6】身体の海の中を漂って/A道化
 
いう言葉だけ覚えている。その言葉を聞いたとき、私は、講義室の左の窓硝子の向こうの緑の葉を見ていた、それは午後の日を受けてキラキラしていた、私の視覚は視界だけを感じていて、 香りも味も伴ってはいなかった、

 当時は哲学科の教授だったが現在は大学総長になられている先生が、10年以上前に身体について論じて記した『悲鳴をあげる身体』の中の言葉、<ときにわたしはそんな身体の海の中を漂って、…>
 私は思う、わたしが身体の海の中を漂う、という感覚を、私は、知ってるような気がする。

 もの思う私、と身体とがそれぞれが自由でありながらそれでいてケンカのない状態。矛盾のない状
[次のページ]
戻る   Point(0)