インソムニア/熊野とろろ
ラグビーボール状の大地から すっくと佇む
月並みの強い風でも来れば吹き飛んでしまうとひとはいう
深夜の人気のない通り タクシーのライトが意識に撥ねる
歩き出してすぐさま 無心への欲求が増していく
川べりで立ち上がり視界にノイズが雑じる
イヤホンから体内へ 体内から風景へ
遥かな深淵が映し出したフィクションをいま観ているのだ
草木は枯れ果て 地上には日の光も届かない世界の断片を
静かなるタイムリミットの訪れ
燃え尽きるなら 汗ばんだ偽者のまま
錯乱のなかで灰になりたい
僕らはいかなる原点も持たない
古い世代の生き方を古い世代が否定する
それが褪せた瞳の少年と符合する
悲しく老いるしかなかった血脈と符合する
呻きも叫びも 決して死者には届かない
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