太陽の塔/瑠王
で燃えるかがり火は、藍の闇に護られ夜の四隅をみている。
絹のように滑らかで、星を琥珀に照らす荘厳な炎。
陽の守人はいつも思う。
生き物は慣れを知っている。
だけど私は、この毎日欠かせない仕事に慣れてしまうことはないだろう。
月の唄い手が子守唄をうたうのと同じ様に。
この瞬間、この時だけは、決して慣れてしまうことはあるまい。
陽の守人は矢筒から一本を手に取り、かがり火に尖端をかざした。
そして東の地平線に目を向けると、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
金の弓を構え、弦に火の矢をかける。
ざわついていた世界が、水を打ったように静まる。
張りつめた弦が、全ての時を止める。
そして陽の守人の手が、勢いよく時間を弾き戻す。
放たれた火の矢は一直線に地平を射し、
あらゆる生命と共に鬨(とき)の声をあげる。
彼方に消え少しの間のあと、やがて東の空がオレンジ色に滲みだす。
陽の守人はそれが姿を現すまでじっと、目を離さずに待っている。
こうしてまた、世界に朝がやってくる。
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