わたしが無職だったころ/吉田ぐんじょう
 
わたしが無職だったころ
茹で卵と塩むすびだけはんかちに包んで
毎日河原へ出かけていた
それしかやることがなかったのだ
アンケート用紙とかに
無職
と書くのが厭だったので
仕事を探してはいたものの
どういうわけかやりたい仕事は
ちっとも見つからないのだった
ハローワークは
くすんだ色の服を着た
うつむいた人たちでいっぱいで
その中だけ冬みたいにうすら寒かったから
あまり行こうとは思わなかった

春だった
河原には一面に菜の花が咲いていて
うらうらと粉っぽいにおいが流れていた
その中に座って
塩むすびと茹で卵を黙って三十回噛んで食べた
はんかちはきちんと畳んで
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