邂逅/熊野とろろ
 
十九歳だった
おれの周りを浮遊するものがあった
殺意だった
おれは恋人を友人を家族を学校を大人たちを
すべてを殺したくて仕方がなかった
ただの殺戮じゃ飽き足らない
何度も何度もナイフで突き刺し
血を垂れ流したまま
あらゆる街路を引き摺り廻してやりたかった
その光景を想像すると
戦慄するとともに
薄笑いが込み上げてきた
同時におれは無力だと知った
ティーンエイジャーの弾けるような若さの力は
おれには一切無縁のことのようだった



あの時も似たような気持ちで
駅の構内を歩いていた
腹立ちが治まらず
一服の煙草吸いたさに歩いた
おれは他人と戯れ合うのが好き
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