短冊と落とし文月/混沌の薔薇/海里
アイリス、薔薇の虹彩
水晶体は紫水晶
産毛のような視神経
薔薇の睫毛
やわらかな莟み耳朶
すべらかな鼻すじ
花はもともとその多くがヘルマフロディトス
笑窪には邪気と無邪気
薔薇の頤、その頑なさ
モナリザの笑みの随意筋
内分泌フェロモンとパルファム
咲くことの全てを支える緑濃き結合組織
薔薇の皮膚、痛点、薔薇の痛覚
棘、爪、つんと長い見えない触角
花と葉のうらおもて
心のうちと表情
それから
二の腕
肩までをたどって
薔薇のりんご
肋骨
薔薇の乳房と蕊
乳頭と花柱
花のうてな
イブなどと名づけずただ薔薇とだけ呼ぼう
ふくらかなふともも
伏せた花びらのカーブ
アンクレット薔薇のかかと
くるぶし
ふくらはぎ
つぼみが花びらひとひらずつにほどけるように
歩き出す美しいホムンクルス
やぁ
生まれたね
そのいのちの成り立ちを
身のうちのすみずみにまでゆき渡らせて
息づく薔薇のホムンクルス
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