かぜごゑ/吉田ぐんじょう
風邪 いちにちめ
体のなかはあついのに
皮膚の表面はつめたい
俗に云う風邪なのだと気づいてからは
ずっと布団の中でグレープフルーツを齧っていた
昇ってくる陽にそっくりな果実は
わたくしの爪で容易く破られ
はしたなく果汁を空気中にばらまく
息もつかずに三つ四つたべれば十分なのだけど
爪で果皮を破るのがおもしろくて
床へじかに座り込んで
へたの少し凹んだところに
親指を差し入れて破りつづけた
親指がひりひりしてくる頃には
うちじゅうのグレープフルーツを
すべて破り終えたあとで
そのまま横倒しに倒れたら
グレープフルーツばかり盗む
泥棒になる夢を見た
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