ファミリア/吉田ぐんじょう
 

夕飯のあと
残した刺身を生姜醤油に漬けて冷蔵庫へしまう
こうしておいて翌日に
焼いて食べると美味しいというのは
母に教わったことだ
そういえば結婚して引っ越す当日に
母がお餞別と言ってわたしにくれたのは
蟹缶だった
昔から実家に置いてあったもので
父が出張帰りにお土産で買ってきてくれて
だけどもったいなくてずっと食べなかったやつだ
ところどころ錆びついていた
どうしようもなくさびしくなった夜中に
ひとりで泣きながら食べた
あの時笑った母に手を振ったまま
もう一年くらい帰省していない
刺身を漬け込んだ人差し指を舐めてみる
同じ材料同じ分量で作っても
どうした
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