或る朝のまなざし/熊野とろろ
 
なしに見ている
母が書き込んだ母個人の予定だ
母は居間の隣、開け放たれた引き戸の和室でまだ寝息を立てている



純白の靄の奥で漁船が出発の笛を鳴らす
灯台の光だけが彼の視界に届く
彼はその海を想像し、潮と体液の薫りが全身を包む漁師たちを思い浮かべる
やかんから湯が沸き、蒸気が鳴る
彼にはそれが今日の日を始める号砲のように聴こえる

コーヒーを飲みながら微睡み
新聞屋の軽トラックが到着した音に気付く
ゆっくり階段を下りながら彼は想像する
薄い靄を歩く新聞配達 薄い靄の中の一軒の家 日常 それらへのまなざしなどを


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