井の中の蛙 未練を知る/nonya
は知っていたし
大海のことも大抵はネットで
知り尽くしていたから
蛙は仕方なく岸にあがった
でもなんだか変だった
うまく皮膚呼吸ができなかった
いつもはケロっと忘れてしまえるのに
彼女のぬくもりはいつまでも
身体の周りにへばりついていた
しばらくして蛙は
これが「未練」というものだと知った
早く忘れてしまいたいのに
なかなか忘れられない
なんともやるせない浸透圧を
蛙は初めて思い知った
岸辺に打ち捨てられた
七月のカレンダーの上の
ふやけた約束にしがみついたまま
蛙は井戸の中にも帰らずに
いつまでもほろ苦い痛みを
抱きしめていた
戻る 編 削 Point(16)