井の中の蛙 未練を知る/nonya
 
は知っていたし
大海のことも大抵はネットで
知り尽くしていたから
蛙は仕方なく岸にあがった

でもなんだか変だった
うまく皮膚呼吸ができなかった
いつもはケロっと忘れてしまえるのに
彼女のぬくもりはいつまでも
身体の周りにへばりついていた

しばらくして蛙は
これが「未練」というものだと知った

早く忘れてしまいたいのに
なかなか忘れられない
なんともやるせない浸透圧を
蛙は初めて思い知った

岸辺に打ち捨てられた
七月のカレンダーの上の
ふやけた約束にしがみついたまま
蛙は井戸の中にも帰らずに

いつまでもほろ苦い痛みを
抱きしめていた

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