顎なし鱒夫と俺物語/e.mei
はじまりは、「鱒夫の憂欝」
ああ!――磯野家へと続く道! おお!――散らばった靴たちよ! 俺が婿にきた時は綺麗に掃除されていた玄関は今はどうだ? 当時の、波平の笑顔さえ遙か遠くに感じる!
仕事が終わる。さらば太陽。波平が稲妻をなびかせながら俺の肩に手をやる。「どうだい、一杯」誘いという名の強制、深紅の空が闇に支配され、立ったまま拒否でもしようものなら髪にも負けない稲妻が落ちてくる。(――俺は婿養子。俺は婿養子)「良いですね義父さん(良いわけないだろう!)」永遠から追放され、俺は地獄へと閉じ込められる。良い女はすべて波平に、残るものは波に食われた女たちの群れ。タイコ!――
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