八月のミックスジュース/狸亭
 

舞台の中央には透明な攪拌機がありまして
僕によく似たピエロが登場します
ピエロは無言で虚空を凝視めると
両手をひらひらさせて様々な八月を取り出します

粗末なリュックに詰め込んだサツマ芋
疎開先の埃っぽい田舎道
ラジオの前に群れている大人たち

海辺
軒の低い民家の葦簾張り
晴天の浜を走る少女の褐色に光る脚

渓流に浸した面に映る鯰の巨大な髭
従兄弟とその仲間の悪童たち
銛の光りのように流れてゆく一日

海の見えるヴェランダに面した机の上
『純粋精神の系譜』の未だ読んでいない
眩しい頁

蜜とミルクの流れる土地に流れる血
街を行く男たち女たちの彫りの
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