アベフトシが死んだ日に/リヅ
 
アベフトシが死んだ昼に新聞記者は訃報を記事に起こし
アベフトシが死んだ夕方にCDショップは特設スペースを作り
アベフトシが死んだ夜にテレビでは追悼番組が組まれた

アベフトシが死んだ夜中に私は長年忘れていたアベフトシと出会った
久しぶりに出会ったアベフトシとともに
彼と逢瀬を重ねていた頃の14歳の私にも出会ったが
アベフトシが死ぬよりもとうの昔に彼女は死んでいたので
その体は風化して
頭も胴も腕も足もバラバラ、骨さえむき出しだった

20歳の私が記憶をとっかえひっかえしてようやく
セーラー服を着た一人の私を組み立てた時に
その娘は「オギャァ」と赤ん坊のように叫んだ
まるで見知らぬ人のように


だから
「さよなら」って言葉を口にするとき
「はじめまして」という音が重なって耳に届くことを
私は信じている
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