夏をかう/木屋 亞万
 

ばしゃばしゃと音がして、大黒柱を流れる滝に
裏庭で飼っていた、つがいの鯉が登っていくのが見えた
ついに屋根まで登りきって、赤と黒の鯉のぼりになったようだ
窓の向こうをつがいの竜が泳いでいった
これからは二頭、瓦の波を押しのけるように生きていくことだろう

ひとしきり発電作業を終えた後、庭に出ると
疲れた様子の夏が裏庭で凪いでいた
お前も年を取ったなと言いながら
ぷつりぷつりと蜃気楼を剪定していった
隣で息子も見よう見真似で剪定鋏を動かしている
「死なないよね、夏」と息子は言った
夏は涼しい風を一つ寄こして、また凪いだ

隣の庭の夕焼けを眺めると、
夕陽に向かって竜の群れが飛んでいくのが見えた

「人間よりは長生きするさ」と呟いて、入道雲を抱きしめると
台風が無事保護されたという風の噂が聞こえてきた

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