女の借景/ヨルノテガム
 
らかな魔術師であり
木々と草花と風を従えた、百面相の水の命であった
女は濡れ 型を変え、真一文字に結んだ口を
おもむろにひらいて 聞こえない呪文を洩らした

細い腕を二本、何かと何かの橋渡しとして
女の肩の丸みは 地平の動物が歩み出す一歩目の
土台のような遠い骨格であった


女の目が見開き
女の鼻は滑り台
二つの鼻穴をなぞり
紅い唇は時間を止める
曲線を謳う黒髪はあらゆる力学に答えを与えていく

女の微笑が太陽に向き、まるで一直線に合うとき
無気力、無感動、無駄、
全ての無の引力に 女は充満している

女の手の丸みからそっと無心を見つめる


幾つかの季節は足早に過ぎる














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