suicaなひと/恋月 ぴの
 
くちびるに触れるか触れないか
そんな軽妙さがおとなの分別ってやつだから
コミュニケーションの難しさとか真面目に考えてはいけないよ

古きよき時代であれば
裸足では歩けないほど灼熱の砂浜で
友のはやし立てる声に導かれ見事に割った真夏の思い出
真っ赤な果肉は砂にまみれ
べとべとになることさえ厭わなかったのに

いつから爪先のほんの僅かな穢れさえ忌み嫌うようになったのだろう

でもさぁ傷付くのを恐れているだけじゃないような気がする

結論を急がない
あえて求めようとはしない
そんなノンタッチの幸せだって有り得るのだから

バシッと叩きつけるのはルール違反
そんなことしたってあのひとの心は開けない

あくまでも優しく
触れるか触れないかの軽妙さでI love youの挨拶を交す



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