ヘビと戦う/たもつ
 

ヘビと戦った
俺はけっして戦うために生まれてきたわけではない、けれど
俺はヘビと戦うために生まれてきたのだ
そんなことを考えているうちに朝がきて、俺
ヘビと戦った
窓を開けると、あんなに探していた父と母が
体ごと家の方に泳いでくるのが見える
もう、水は全部引いたのに、泳いでやってくる
その見事なフォームに見とれているうちに
ヘビは俺の脚にかみつき
少しずつ空気が抜けて身体はしぼみ
ついに俺はヘビになった
正確に言うと、やっとなれたのだと思う
ヘビになった俺は隙間のようなところから外に出て
俺になったヘビは、またどこかで戦おうと心に誓うのだった
父と母はようやく家に泳ぎ着き
俺になったヘビが、おかえりなさい、を言うと
父は、今日の夜は出前でいいだろう、と言い
母は、おまえを産んでよかった、と言う
もう数十年も前の話なのに
まるで新品の思い出のように
おまえを産んでよかった、と言う
 
 
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