接吻/殿岡秀秋
母はつぶやいた
大人の秘密の世界が
その種に含まれているのを
ぼくは見ていた
早めに小学校が終った日
宿題も出なかったので
足取りが弾んで
薄い汗を掻きながら
家に着くと
勢いよく玄関をあけた
母は出かけていたが
叔父が留守番をしていた
ぼくは母との会話を思いだした
「せっぷんというのは
おとことおんなが
くちびるをあわせることをいうのだよ」
叔父はうなずいた
「やってみようか」
とぼくはいった
叔父と唇をあわせると
薄い汗をかいたまま
外に遊びに行った
数日すると
なんでせっぷんしたのか
と自分を責めはじめた
取り返しのつかないことを
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