五月の教室/千波 一也
 


透明なきもちになりたくて
見あげた空は青だった

よく晴れた
雲ひとつない青だった


春の匂いはまだ冷たくて
透明な
青の真下は
なお冷たくて

見つからない意味の底にある
五月の教室が扉をひらく



 少女の指がやせ細るとき
 少年の背は伸びてゆく

 少女の髪が
 揺れ惑うとき
 少年の目は旅の途中


 教科書にない言葉に満ちて
 廊下は古く
 薄暗い



透明なきもちになれなくて
見すてた空は青だった

よく晴れた
雲ひとつない青だった


春の匂いが恥ずかしくって
だけど
なぜだか
憎めなくって

眠れない意味の底では
みんな必ず眠るから
五月の熱は幻もどき


そうして青い教室は
だれかのために扉をひらく

かつて愛した
だれかのために









戻る   Point(2)