夜を恋する人/佐々宝砂
 

夜よ、
相手が何者であろうとも、
おまえは気にしないで呑み込む、
夜よ、
私を受け入れてくれるのはおまえだけだ。


(萩原朔太郎『戀を戀する人』のネガとして)


{引用=
「戀を戀する人」 萩原朔太郎

わたしはくちびるにべにをぬつて、
あたらしい白樺の幹に接吻した、
よしんば私が美男であらうとも、
わたしの胸にはごむまりのやうな乳房がない、
わたしの皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、
わたしはしなびきつた薄命男だ、
ああ、なんといふいぢらしい男だ、
けふのかぐはしい初夏の野原で、
きらきらする木立の中で
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