夜を恋する人/佐々宝砂
 
私の身体はやわらかい、
私の身体に剛い毛は生えない、
私の頬は滑らかで、
私の胸は満月の丸さ、
私の下腹には毎月ひとつの卵が生まれ、
そして死ぬ。

音もなく霜の降りる夜半、
私は三つ揃いの背広を着て、
赤いネクタイを締め、
四センチ背が高くなる靴を履き、
誰もいない河原で、
気障っぽく煙草に火を点け、
真っ白な煙を吐く。

私の骨盤は広く、
私の胴はくびれている。
何のために?
誰のために?

すがりつくものは何もない。
ただ満月だけが明るい。
吐き出した煙はとうに闇に融け、
私はひとり夜と向かい合う。

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