安楽死/桜 葉一
今年の年明けすぐのこと
愛犬が死を迎えた
老死
人間の年で言えば
100歳近くにもなる
彼は
僕のほとんどの記憶に
存在している
最期を迎える彼は
見るにも耐え難く
あまりにも弱く
そして
なにもできない
僕たちが愚かだった
安楽死
すぐに楽にしてあげたいと思った
安楽死を望むことは
優しさだろう
そう思った
1日以上も苦しみつづけた彼の
最期はあまりにも優しい寝顔だった
思ったほど悲しくなかった
人生の4分の3近くもともにした
彼の死を
素直に悲しむことはできなかった
そんな自分が悔しかった
彼を埋葬し
残ったものは
思い出
それと…
きっと彼は今でも
僕たちをどこかで見ているのだろうと
勝手な想像をして
今日も僕は
新たな家族となった
愛犬の彼女と
散歩に出るのだ
彼は何を思うだろうか
彼は幸せに暮らせただろうか
……
安楽死を望むことは
本当に
優しさなのだろうか
彼が残したものは
思い出と
そんな疑問だった
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