原型/きりえしふみ
 
住処を追われた小鹿のように
今はなき原生林の幻のように
美しい残像だけを (それは一瞬閃く鱗粉のよう)
空へ 大地へ 漂わせて 去る時間は……私は
何者かによって 締め出されたのか
それとも 何者かを捨て置いたのか
命からがら逃れて来たのか

 知るべき者が 私を知らず
 読み解こうとする者に 私は連れない
 一抹の混迷

地下室へと伸びた段を一段一段 足早に降りる
と同時に同じ次元で徐に
空へ伸びた段を昇りつつも その足は此処に
在るという私 希薄な者の存在を
彼らは間近に従えながら 帯びながら 崇め纏いつつ
それに動じず 意識も出来ずに……

やがて私は彼
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