透命/木屋 亞万
か
○あの娘の白い腕や耳の、透明の寿命はどれくらい?
見かけるたびに苦しいくらい慕情が湧いて
自分の容器の小ささに嫌気が差すけれど
あの横顔の持つ明度はどんな泉に顔をつけても得られない
彼女もいつかは皺皺の銀箔みたいになるのだろう
○僕の中を渦巻いているやましさの透明の寿命はどれくらい?
いつか自分の中にあるやましいところは透明でなくなってしまうはずだ
ちょっとした殺意も、汚らしい欲望も、甘い妄想も、思い出のちょっとした書き換えも
いつかは衆目にさらされるのだ
○火葬場で燃え尽きてから透明になってからの僕の寿命はどれくらい?
僕の身体が見えなくなったら、心置きなく眺めたい人がいる
笑顔を正面から見たい人がいる
コンビニで買ったジャンプ傘は電柱に当たって小骨が歪んだ
いつもの朝に、駅のホームで彼女を見かけなくなってもうどれくらいたつだろう
それとなく眺めているフリをしていたのに彼女はどこに行ってしまったのだろう
○僕の心の中にある透き通るような彼女の横顔は、あとどれくらい輝くのだろうか
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