傷/回想/千月 話子
を響かせて
一斉に飛び立つのだろう
その中心で 兄さんは僕を待っているんだ
さっさと野いちごを摘んで
踏みしめて沸き立つ緑の蒸すような匂いが
ある一線で甘い香りに変わる頃
目の前に 鈴なりの野いちごが
赤を主張して 目は釘付け
もうとっくに整った息をして
出迎えた兄さんは
手のひら一杯に乗せた 野いちごを
僕に差し出した
瑞々しい果実を口一杯に含むと
プツプツと弾けて
甘酸っぱい汁が
カラカラに乾いた喉を一瞬で潤した
子供は容赦なく食べる 口の端から零れようとも
兄さんは僕より少しばかり大人なので
弟の世話を焼くのだ
母さんのよ
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