『ふるふる雨ふる』/東雲 李葉
空からふるふる雨がふる。
水辺の少女は悲しそうに目を閉じる。
世界中が雨のベールに包まれたように。
ふるふる雨がふるえる肩に、
ふるふるふるふる容赦なく。
正しい回路で廻る血液。
微細なこの図を編んだのは神様ですか。
小さな膜に包まれた命。裂いたら赤い花が咲く。
生温い雨はふり続く。
小さな羽を濡らしながら木陰の小鳥は黙って耐える。
きっと確かなものなどどこにも無くて。
縁取られた存在も風に解けて消えてしまう。
微かな歌が僕を過去へと導いても。
もう何にも思い出せない。
メロディーなんて忘れてしまった。
雨は、ありもしない昔を思い出させ、
誤った経路を正しい顔して巡る遺伝子。
ちょうど水に溺れる小鳥のように。
抗う術など何も無くて。
樹木を囲う水達を笑いながら撫でている。
歌は、歌は聞こえない。
奇跡なんて起こらない。
空はふるふる雨をふらす。
水辺の少女はほほ笑みながら溺れていった。
この世の限り幸せなんて幻で。
あるのは気付かぬうちに足元にまで差し迫り、
生温い温度で熱を奪う優しくふるえるふるふる雨。
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