扇風機は苦い、手の平は甘い/木屋 亞万
夏が来るたびに扇風機は首を振り続ける
いつかの断り切れなかった言葉を振り切るように
ついには羽根を回す軸が歪み始めて
一人前のプロペラみたいに効果音を出している
あの夏に買ったロング缶のサイダーは
こぼした覚えもないのに僕らの手をべたつかせた
公園の水道水は生温かくて
どうしてもプールのことを思い出させた
風に乗って聞こえてくるラジオ体操の放送が
そんなときに限って耳に届いて
一緒にプールへ行きたいねと言いながら
ゴミ箱に投げた空き缶は
左に大きく逸れてしまった
ダブルボギーで空き缶を沈めて
扇風機とベッドだけが待つ部屋に向かった
洋服ダン
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