不眠症のうた/遊佐
寂れた港町に居る
風が唸りを上げて
右の窓から
左の窓へと
飛び込んで来ては抜けて行く
部屋には何も無くて
退屈さえも無くて
何もない部屋の隅っこには無気力だけが転がっている
みんな、風が運んでしまった
海は遠い、とても遠い
歩けば3分程の距離だけど
船は錆びたまま
陸の上で眠らずに
ただぼんやりと昔を見つめている
正午と
午後5時と
午後9時に
時間を知らせる町内放送がある
台風の日にも休まずに時を知らせてくれる
帰りたくない子供達にも時を知らせてくれる親切な町
右隣の部屋の兄ちゃんは年老いた母親に
首を吊れ
今すぐに首を吊れと罵りながら
真夜中に時々暴れる
でも誰も警察に通報しない
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