帰り道/小川 葉
 
 
 
いつもの帰り道
交差点の角に
見たことのない洋館が建っている
あんな建物があっただろうか

交差点を過ぎた
突き当たりのT字路の先に
見たことのない道がある
あんな道があっただろうか
たしかその先は崖になっていて
海なのに

T字路を
どちらにも曲がらずに
しばらく歩くとわたしの家があるのに
見たことのない
マンションが建っている
困ってしまった
わたしは管理人に事情を話すと
管理人も困った顔をして
家を探しに出掛けてしまった

マンションの住人が
わたしを指差して
ひそひそ話をはじめている
あんな住人いたかしらと
ありもしない口を押さえて
ありもしない話をする

わたしも何か言いたかったけど
わたしにも何も無いので
何も言わず
何もしなかった

誰もいなくなった
マンションを出て
わたしは今来たばかりの道を
帰ることにする

背中から消えていく
わたしが暮らした家が
屋根から壊されていったように
 
 
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