遠い夢?デッサン/前田ふむふむ
居間のテーブルに、汗をおびた白い皮膜がひろがり、ひとり
のピンクのビニール手袋は、両手で艶めかしい声をあげた。
一面、ピンとはった空気が、わたしの熱を帯びた息で震える
と、眼をひからせた二匹の青い犬が、暗い踊り場から、わた
しの耳のなかをかけていった。
わたしは、電灯のスィッチをあげて、左足の踵から階段を降
りた。足裏は、硬く、冷たい、(こんなにも、段差があった
のか。)手すりをもつ手先が、ひとりでに震えた。
下は、暗く、真冬にマンホールを覗いている猫のように心細
い。冷たさの先は、空気を捲いていて、ゴーゴーと鳴り響い
ている。心臓の温もりが、口か
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