「磨硝子の向こう側では」/Leaf
戸を開け、跪いた
枕元で言い知れぬ儚さを頑なに拒絶した
鄙びた翼を毛繕いしながら
仄かな月灯りの点す方を見やった
俄かには信じ難いが
磨硝子の向こう側では
今宵に限って
遮断された暗天の
不可逆的な宇宙(そら)が
厭わしくも
絶え絶えし均衡を保つように
織姫星と牽牛星の一縷の望みが
燦然と輝くのだそうだ
俄かには信じ難いが
磨硝子の向こう側では
今宵に限って
大事に蔵(しま)っていた
淑やかな微笑みの微粒子が
嘆かわしくも漏れ伝い
呪縛が解けたように
織姫星と牽牛星の前身頃の翳に
藍を踊るのだそうだ
月夜に惑溺するほど
僅かに許されるのだろう
そう想った
我が乾いた繊毛
藍の輪郭を
然も認識したいが為だけに
戸を開け、跪いた
枕元で言い知れぬ儚さを
頑なに拒絶した
鄙びた翼を毛繕いしながら
仄かな月灯りの点す方を見やった
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