還らずの時/AKiHiCo
 
陽射しは緩やか優しく
いつかのあの頃を思い出す
今となっては微笑するほどの
何ともなかったであろう事

時間の流れに身を委ね凭れ
残りの生を自然に溶かす
若者は自由の利かない私を疎み
哀れみにも似た声で

年月を刻んだ肌を醜いと
嘲るのならば
その張りは何を示すと言うのか
日陰の長椅子に座り
居場所を探すけれども
この老体の居場所は何所に
――無く

懐かしい昔の流行歌
兵隊さんは敬礼し凛凛しく
日の丸掲げて向かう戦地
還らぬかつての思い人
スマトラは遠い島よ
恐怖に慄くミッドウェー

後は死を待つだけの生活
陰口が聞こえる聞こえる
まだかまだかと風が啼く

裾をたくし上げて三途の川
死んでも誰も悲しまぬ静寂
安らかに苦しまずに
灯篭を目印に進めばいいのか

家族の輪の外
居場所は過去の何所かに
置き去りで
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