「声」/草野大悟
 
なすことができた
魚になることができた
雲にうかぶことができた

山の祈りをまうことだって
海の呼吸を泳ぐことだって
風の波にとぶことだって
できた

いつのころからだろう
あの声をきかなくなったのは

いつのころからだろう
とうめいのくさりをかんじはじめたのは

いつのころからだろう
はちゅうるいのわらいをわらいはじめたのは

いつのころからだろう
あの声をきけなくなったのは

その声は とつぜん聞こえてきた
その声は ひのひかりのなかにあった
山や海や雲や風のにおいのなかにあった
その声は かれのなかにあった


蒼穹をみあげながら
はんすうするかれに
風花(かざはな)がふりそそぐ


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