「声」/草野大悟
くだけちる
さくらのなかを
あるいていたよ
こごえた炎をかかえて いつも
ひらひらと 花びらは 風をまい
狂をひめ ふりつもり
さまようかれの影をそめて
そらをひろげ
へべれけにうたうひとたちのなかを
かれは
ただ
ふらふらと
ふらふらと
あるいてきたよ
がらんどうの二つの闇が
いくつもいくつもまとわりつき
うっとうしさに
その闇をくらい
いつのころからだろう
あの声をきかなくなったのは
いつのころからだろう
すべてにやさしくなったのは
いらいらと
いつもなにかにいらだってはいたが
たしかにおれはあるいていた
木とはなす
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