海と蟻/夏嶋 真子
渚を歩いていたときのことだ。
波打ち際に、細くなめらかな黒い曲線が描かれていた。
それは波の姿を象って視界の及ばぬ範囲へと延々と続き、
足元に目をやれば無数の点の集まりで、なにかの種を思わせた。
この奇妙な紋様の一粒一粒を観察すると
あるものは乾涸び、あるものは生死の狭間で瞬いている。
蟻だ。
太陽にじりじりと熱せられた砂浜をたくましい生命力で闊歩する蟻。
その一匹を目で追うと、どうしたことか海を目指すのだ。
まるでそれが目的であるかのように、波に吸い込まれ、打ち上げられ
死の紋様の一点になり、折れた触覚をぴくんと震わせ
命の淵を力なくもがいている。
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