真空林檎についての考察/within
 
この部屋の光の具合もあるだろうが 其の皮は重く

赤みは幾分黒ずんでいるように見受けられる

産毛のようなものが軸の窪みのあたりに白くうっすらと生えている

以上からしても 其の林檎は若々しい酸味よりも熟した甘みと

張りのない果肉が秘められていると予想される

今まで手に取られることなく選ばれなかったことによる完熟を もしくは老いを

迎えているのである

私が口にしてしまった若き林檎の実存は たしかに私の記憶に留まっているが

目の前の真空林檎に関しては 想像することによってのみにしか

その内実に触れることはできない

果たしてその重みはいかほどのもの
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