ブダペスト/本木はじめ
 
こんなにも美しい街なのに
息苦しい
中世の甲冑に身を包んだ兵士たちの
巨大なブロンズ像の元を歩きながら
高い空がどこまでも遠く感じられる
家に帰りたい
家に帰りたい
いったい僕はどう報いればいいのか
失われた出会いに
セーチェーニ鎖橋の上を歩きながら
より低いところへと流れ行く河を見下ろす
いつかは同じところでみなひとつの大きなうねりを生み
ぶつかり合い漂い同じ時間を共有するのだろう
たくさんの人の流れにのまれ波をかき分け
階段を上り階段を下り
辿り着いたブダペスト東駅で
オリエント急行に乗る瞬間
ふいに聞こえる
「わたしたちを忘れないで」
が、いつまでも列車について来る
僕は僕の通ってきた道しか知らない
車内に置き忘れられた荷物
こんな旅になることははじめからわかっていたはずなのに
後へ後へと過ぎ去ってゆく窓の外の風景たちが
もういちど呼び掛ける
「わたしたちを忘れないで」と
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