「コップ一杯の宇宙」/ベンジャミン
 
午後
カーテンのすきまから
迷いこんできた空想がひらひらと漂う
うまく捕まえることができずに
言葉にならないので
そのままにした

きっと
そのままの方が良いのだと
勝手な理由を知ることもなくひらひらと
迷いこんできた空想が漂う
僕のすぐそばで
そのままで

コーヒーを飲みながら
減ってゆく何かを淋しく思う自分を感じた
たったコップ一杯の感情に
見えない底を見ようと
いっきに飲み干した
何も無かった

その空っぽのコップに
さっきまで漂っていた空想が
まるで自分の居場所を得たかのように
飛び込んできて驚いた
驚いたままにして
そのまま

そのままにした
空想がコップのなかで小さな渦をつくる
何も無いはずの空っぽを満たして
空想が自由に見えた

それ以上はもう
言葉にはできないと思って
それを宇宙と呼ぶことにした

僕のすぐそばで
そのままで

コップ一杯を満たした宇宙が
小さな渦をつくっている

それなのに僕はもう
そのコップに手を伸ばすことさえできない
戻る   Point(8)