ある日の夏、水の爆発/あ。
 
止める
みぎとひだりの時間も止まる
目の前を通り過ぎる何台もの車やタクシー
運転手の顔などいちいち区別はつかない
表情もひっくるめて流れる風景の一部

止まっている間に喉が引っ付くような乾きを感じ
前かごからペットボトルを取り出す
キャップを開けようとした途端に信号が変わり
みぎとひだりの時間が再び動き始める
流れに乗ろうと慌ててハンドルを握りなおすと
ペットボトルがからからと音を立てて下に落ちた

飛び散った透明はほんのわずか時間を止める
再び動き出したとき、通り過ぎる人に軽くにらまれる
そんな視線をひしひしと感じながらも
コンクリートを黒く染めた液体に動けなくなった

もしかしたらこの水は実は時限爆弾で
役目を終えて燃え尽きて黒く染まったのかしら
梶井基次郎の檸檬みたいな妄想

あのせかせかしたサラリーマンに教えたら良かったかな
教えたところで使わないのはわかっているけれど

うっすら赤い爪をいじりながら思う、夏の午後
戻る   Point(18)