儀式/HTNYSHR
対岸の浜で諸手を振って儀式張るカニたちはもちろんこちら側からは見えない。アサリ取りの漁師の舟が水面に突き出た竹の近くに浮いている。そこには何本もの竹がある。
当たり前のようにあった堤防は何でもないものだったけど、あの堤防は立派なものだ、と気付いたときに少し大人だった。今は無い砂浜にマネキンが逆さまで突き刺さっていたのは何故だったろう。あの細くて力強い脚は幼心にもエロく感じられたものだった。
そうかと思えば浜に打ち上げられたスナメリの腐りかけた肉を見つけたり、犬の散歩をする近所の人に挨拶をしたり、川は思うよりも多くのものを育んでいた。
繋いであるぼろ舟を漕ぎだして月の道を行ったね。舟は立派な棺桶だった。厳粛な気持ちで滞りなく儀式をこなし、船出は近かった。バラナシで死体を流すのと一緒。この川に流れた多くの夢達と一緒。呪文めいた言葉を口ごもらせて舟に積み込まれた諸々を見送ると、それらはどこかに流れていく。
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