黒猫/北街かな
 
とつで飛び越えて
黒猫はあしもとを知らず駆けてゆく
その姿、痕跡に
やかましく正誤同異を判ずることはやめるんだ

明確にふちどられて分別される街の区画に立ち
細めたその眼で全てが遠くなるのを見ていたら
だいすきだったあの空すら、壊れていくのが確認できたんだ

明瞭整然を信奉する多数派パラノイアの金属的な声、耳が
あらゆる悩ましげな虚実の音楽を盗聴しては
悪趣味な改変をしでかしてそこらじゅうに吹聴している
黒猫の逃げ足に鳴る鈴の音を聞くな、解読してくれるな
それは何物も証明せず、意味も要らなかった
たとえ、黒猫の逃走に愛があり
宇宙の核心があり、実存の根源があったとしても
触れるな、
最後の逃げ場を奪わないで

逃げ出した黒猫を追うな
実在を愛せぬその手で
空想を憐れむのはやめてくれ


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