僕が本を閉じたときに/たりぽん(大理 奔)
僕が本を閉じたときに
誰かが新しい頁をめくるでしょう
僕がまぶたを伏せるときに
目覚める朝もあるでしょう
僕がこぶしを握るときに
手のひらを開いて母を求める
新しい命がきっとあるのです
夢の中の魚を思い出せない夜
はじめて会う人から懐かしい香り
生まれた街は忘れてしまったのに
墓地から見下ろす港の夜景が忘れられない
僕は
誰かがこぶしを握ったときに
生まれ
誰かがまぶたを伏せたときに
目覚め
誰かが本を閉じたとき物語を
すすめるのです
僕が閉じた本を
誰かがまた開くでしょうか
僕が目覚めたときに
眠ってしまった夢を
誰も知らないのに
木の葉が散るときに
蝉が鳴き尽くした時に
稲妻が激しく揺さぶる季節に
小川に蛍を流した夜に
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