子吉川/小川 葉
最近鏡を見ると
やけにその顔を思い出す
おじさんは僕に微笑みかけると
父さんの方へ歩いていって
小さな声で話したり
懐かしく笑ったりしていた
まるで生きてるように
それから僕は
土手をのぼって帰るおじさんに
おじさんも釣りするんですか
と、たずねた
昔したよ
よくここで父さんと
離れて川の流れを見てるのが好きだった
ひとつも釣れなかったけどね
でも一度だけ父さんが
大きな魚を釣りそこねたことがあるんだ
おじさんが指差す
その方を見ると
父さんの竿がしなってる
その流心の辺りで
大きな魚が一度跳ねて
それっきりだった
振り向くと
おじさんもいなくなっていて
川の流れが止まる
すると今度は海へ向かって
子吉川は流れはじめるのだった
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