窓辺に眠るさかな/佐野権太
 
水槽の底の
薄く撒かれた石床を
胸に抱えたまま
いつまでも
眠りにたどりつけない

硝子の鏡面に映る
瞳の奥、の奥
私は
銀色のマトリョーシカを
組み立てる

+

あなたの棲む水槽は
ここより
遥かに深いのに
ふさぎこむときのあなたは
奇妙に跳ねる

それは
恐れというより
むしろ、能動的に

そうした着水から生まれる
波紋のまばゆさや
潜航する背中の中心に
私はいつも
やられてしまう

+

明け方の空
あなたとの距離を呼吸する

帽子を目深に被った
配達夫の少年が出発する

平らにのびる
水田のみちで
青い鞄の留め金を
かちゃかちゃ揺らして

あなたの浅い夢の窓辺に
うつむいた
小さな花草が届くころ
ようやく私は
感情を眠らせる

息絶えるように
眼球は開いたままで






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