一里のヒンバ/ふるる
 
一里のヒンバがめおととなって
丘を下り始めたとき
二里三里ともおそらく
自らの距離をもう距離とは言えず
巨とか凶ばかりがやたらに目に大きく写り
逃げ出したいのをぐっとこらえるがもう
一里のヒンバは間近の間近
ところでヒンバの妻とはかの
流星のごとき銀髪の
切れ長まつげの乙女であったが
次々生えてくる緑色の腕を引っこ抜くのに忙しく今だに
夫であるヒンバの方を見ないという
つまりはしごを立てかけても
バタンバタン倒れるばかりで
いくらヒンバが上へ駆けのぼろうとしても
そこはめおとでなければまったく役には立たないのだが
二里三里はすでに
黒ぐろとした影にも等しくなり
自らの存在理由をそろそろと忘れかけている
その頃
ヒンバの生まれてくるはずの子どもらが
大きな網でもって満天の星をゆらりゆらり
取ろうと頑張っており
通りがかりの老婆がやれどっこいしょと
それぞれの役割を正しい位置に戻し
こんなふうに
曲がったものを
まっすぐに立てかけることはたやすい

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