雨とマスカラ/うめバア
ロング・ディスタンス・コールだから
お金がかかるよねと
姉は一人、つぶやいて
マスカラを重ね塗りする
だけど長い、長い、電話線の先に
つながるものは、もうないのだと
本当は確信してしまっている
振られたんでしょと冷たく言ってやったって
聞こえないみたいな顔して
何度もアイラインを引き直すから
こちらも外の、雨を見ている
降るね
降るね
ずっと降ってりゃいいんだよ
子どもの泣き声がうるさいから
苛立ってつい振り向くと
こんな野暮ったい世界全体を
まるごと見据える
黒い瞳にでくわして
なんだか、恥ずかしくなって
笑ってしまう
どうでもいいよ
どうだって
だけど
やまねぇ雨は、ねぇんだよ
戯れ言を
聞いているのか、いないのか
姉は眉を引き終えて立ち上がり
でかける、という
安&古マンションの4階に
したたる雨は
歌ってるみたい
遠くの空がほんのりと
明るくなってきた
雨はもうじき
やみそうだ
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