火の粒/相馬四弦
あの子が火の粒となって
どれだけの時代が過ぎただろう
三軒長屋の裏庭で
たわむれに散った線香花火の
ちいさな火照りから生まれて
むくんだ素足で まっくろな顔で
ふらふらと
川辺で石を集める子供達の鼻先を
ひっそりと横たわる商店街の陰の中を
寝癖を気にしながらバス停に並ぶ学生のうしろを
真冬の夜に窓からこぼれる団欒の外を
鉄工所の軒下で膝を抱える青年のうつろな瞳の前を
いよいよ賑やかな森の巣箱の営みを
ふらふらと
灼けあとを探して
火の粒は朝やけが苦手
さまよい疲れて
国道沿いの植え込みの中に寝床をみつけると
遠くへ飛ぶことなんて叶わないからとつぶやいて
せめて煤となる夢をみる
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