消しゴムららら/いっと
 
「いいこと教えてあげようか」 
と、お姉ちゃんが笑う 
夕暮れ時の部屋は 
鮮やかなオレンジ色に染まり 
「消しゴムに好きな人の名前を書いてね」 
「それでその消しゴムを使い切ると」 
「その人と両想いになれるんだって」 
「誰にも言わないでね、二人だけの秘密だよ」 
人差し指があてがわれた 
しっとりとした口唇 
それを見ていると 
不思議と勇気がわいてきて 
何か特別な武器を手に入れたような 
そんな心地になった 
それが「秘密」というものだ 
十五年前の 
私の密やかな片思いは 
どうやら叶わなかったらしい 
確固とした証拠が 
今 
私の手元にある 
つかの間の逡巡の後 
再び机の奥に 
消しゴムを戻した 
(これは私だけの秘密にしておこう 
そう思った 
あの時と同じように 
部屋は鮮やかなオレンジ色に染まり
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